本妻
私は、世間で言ういわゆる愛人の子供だ。本妻の子供は2人、兄と姉がいる。
私の父親は、時々テレビの経済ニュースでもコメンテーターとして登場している、大きな流通グループの創業者だ。
小さいころはよく「愛人の子」と言われた。私が「愛人」という言葉を本妻という言葉と一緒に覚えたのは保育園のときだった。一番仲良しだった恵子ちゃんが「ねえ、よしみちゃんって愛人の子なんでしょ」とにっこり笑って聞いてきたので、「愛人」という言葉の意味をその日迎えに来てくれた母に聞いたのだった。母は一瞬顔が凍りついたようになったけど、それは本当に一瞬のことで、次の瞬間は「来るべきものがきたな」という感じの余裕の笑顔になっていた。
母は、いつか私にそのことを話そうと、その話し方を準備していたのだと思う。家に帰ってから二人きりの晩ごはんを食べている間、母はにこやかに父のことを話してくれた。私にとって幸いだったのは、母がそのときでもまだ父のことを愛していて、父もどうやら母のことを愛しているということが確認できたことだった。でも本妻という人がいるので一緒には暮らせないということだった。
愛人の詐欺
おそらく母が翌日すぐに連絡を取ったのだろう。次の土曜日に私は母とディズニーランドに行った。そこには、背の高い白髪の、母とは多分20歳くらいは離れていそうな(後から分かったけど正確に20歳離れていた)おじちゃんが、顔中を笑顔にして私を待っていてくれた。
一日中私ははしゃぎまわって、夕方にはおじちゃんの背中でおんぶされていたのを覚えている。
「意外と早かったね」
「ええ」
そんな声が聞こえてきた。
「これからはちょくちょく会おうね」
おじちゃんの声が聞こえていた。